今回は鉄系特殊鋼の詳細説明その②です。
・ハイテン(高張力鋼、超高張力鋼)
読んで字のごとく引張強度が非常に大きい鋼材です。一般的には引張強度340MPa~790MPaのもの、または490MPa以上のものをいいます。また、引張強度980MPa以上のものは通常、超高張力鋼板と呼ばれます。強度が大きいものの延性が比較的小さく、割れやすいです。ちなみに引張強度の単位がPaなのは応力をとっているという解釈でよいかと。単位断面積当たりなので非常に便利なのです。
高張力鋼は鋼にNi、Si、Mnを添加して作るらしいですが、詳細は企業秘密。今もなお高張力鋼は日本企業がほとんどを生産しており、中国や韓国でも日本企業の生産する高張力鋼の品質は達成できていない…とされています。
性質としては強度が大きいことと、腐食に強いことが挙げられますが、ほとんど普通鋼です。用途としては実に様々ですが、大量生産可能、低コスト、高強度が求められる分野で使われることが多いです。船舶、重機、自動車、果てはボルトの材料にも使用されています。
自動車業界ではプレス加工の際に割れやすい、普通鋼と比較して溶接が難しいことなどを理由に今までは避けられていたのですが長年の研究の成果もあり、近年採用が進んでいます。これはやはり軽量化、高剛性化できることが一番の恩恵です。どういったロジックなのかは以下で示します。
まず、普通鋼よりも強度が大きいため、同じ強度が必要な部材を作るとき、より細く、薄く作ることができます。すると、比重は普通鋼とほぼ同じなので、部品の体積が減り、結果軽くなると。また、当然そこまで攻めない設計をすればその部品の強度や剛性は上がることになるということですね。
軽量化はやはり低燃費化になくてはならないものですし、高剛性化は乗り心地や走行性能に大きく影響します。また、ピラー等を細くすることができればより視界の広い車を作れるため居住性の向上にもつながるわけです。近年は加工が比較的容易かつ安い高張力鋼が多く、しかもそのほとんどが日本企業によって生産されています。こういった部分で日本の自動車メーカーは優れた鋼材に恵まれており、より自動車への高張力鋼の応用が進むというわけです。
ここでアルミはどうなの?って思われた方は非常に良い。ところが、アルミ合金で車のシャシーを作ると必要な強度を確保するには大量のアルミ合金が必要になり、結果、高張力鋼で作った方が軽くなるんですな。ではここで質問。なぜ「軽量化命!」な航空機はアルミ合金製なのでしょうか。答え合わせはまたいつか。
最後に高張力鋼の弱点について。それは高張力ボルトについての歴史を調べてみるとわかるのですが、水素脆化です。確たる原因は不明、完璧な対策も不明と謎だらけの現象ではあります。ぜひマテリアル系に入って研究してみてください。
最後は投げやりでしたが次回も特殊鋼!前回、今回ほど重くはやりません。さらっといきます。それではまた次回。
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