11 加工-10 切削理論

加工

 今回は切削の基本原理についてです。基本なので式とかは極力出さずに行きます。どうしてもやりたい人は工学部に行けば理論でも実験でもできますよ。

2次元切削

 基本

 切削の基本原理はまず2次元切削を説明していきます。まず2次元切削とは、刃先と工作物の関係を真横から見て表したものです。工具の幅(画面奥手前方向)のことは考えずにある断面を切り取ってきて考えます。まずは基本的な用語から一通りさらっていきましょう。

すくい角α:工作物表面に垂直な面と刃物がなす角

送り速度(切削速度)Vw:工作物と刃物の相対速度

切込み量d:1回の切削で切り取る工作物の厚さ

切削幅b:1回の切削で切り取る工作物の幅

せん断角φ:せん断変形が起こっている(と仮定したときの)せん断面の角度

摩擦角β:「すくい面垂直力Nと摩擦角の二つの合力R’」と「すくい面垂直力N」がなす角

せん断強さ(最大せん断応力)τs:単位面積当たりの材料(加工物)が耐えられるせん断力の最大値

切削力:切削時にかかる力

主分力Fp:刃物進行方向に平行な方向に働く切削力

背分力Ft:工作物に垂直な方向に働く切削力

「○○力」と書いてあるものは全てベクトル(向きと大きさ)です。スカラー(大きさ)ではないのでお気を付けください。そして、ここからが大切なのですが、太字になっている定数が分かれば細字のものは全て数式により導き出すことができ、その逆もしかりです。例として主分力Fp(式1)と背分力Ft(式2)は以下のようにあらわすことができます。

\(F_p=\frac{\tau_sbd}{\sin\varphi\cos(\varphi+\beta-\alpha)}\cos(\beta-\alpha)\)  (1)

\(F_t=\frac{\tau_sbd}{\sin\varphi\cos(\varphi+\beta-\alpha)}\sin(\beta-\alpha)\)  (2)

 切削速度、切込み量、切削幅、すくい角は機械や工具のパラメータなのですぐにわかりますし、せん断強さは材料のパラメータです。そして主分力Fpや背分力Ftについても比較的簡単に計測できるのでそこから摩擦角やせん断角を推定することができます。そうしたデータの積み重ねからせん断角、摩擦角、すくい角の関係については様々な説がたてられています。その中でも正確性が高いのが最大せん断応力説(式3)と最小エネルギ説(式4)です。

\(\varphi=45^\circ-\beta+\alpha=\frac{\pi}{4}-\beta+\alpha\)  (3)

\(\varphi=45^\circ-\frac{\beta}{2}+\frac{\alpha}{2}=\frac{\pi}{4}-\frac{\beta}{2}+\frac{\alpha}{2}\)  (4)

これらはあくまでそういった傾向を示したものであり、確たるものではありませんが、実験値はおおむね似通っています。

 

 工具の丸みによる影響

 図1では刃は直線のみで構成されていましたが実際は先端にはどうしても丸みがあります。これはどうしてもなくすことができないものです。そしてこの丸みにより、実際の切削は以下のようになります。

 

 この時切削されずに刃物に押し付けられた部分に働く力をエッジフォース(押しならし力)といいます。

 

 表面硬化

 切削加工の様々な力や熱により切削加工後は表面が硬化します。残留応力がある場合もあり、その場合も表面は通常と違った物性を示します。疲労に関係があるので疲労の管理をする場合には考慮すべき内容になってきます。

 

3次元切削

 刃先はどこか

 ここからは3次元切削ですが正直あまり説明することはありません。数式は嫌でしょ?しかし、初見では誤解しやすいポイントがあるのでそれについての説明をしておきます。

 誤解しやすく、また、よく考えるべきポイントは2次元切削を適用した面はどこかということです。フライス盤については分かりやすいですが念のため。平面加工ならA、即ち半径に垂直な面で考え、側面加工ならB、即ちエンドミル回転軸に垂直な面で考えます。

そして、旋盤。バイトはこのような形状なのですが…

 これをそのまま図1にあてはめて考えてはいけません。正解はこれを90degree回転させたものですね。

 そして何となくわかるかと思いますが旋盤とバイトによる3次元切削は理論で考える分には面倒くさいです。エンドミル加工も若干の面倒くささはあるもののそれでもまだ考えやすく、定数さえ分かっていればx、y、z方向の切削力を出したり、測定した切削力をもとに別のパラメータを求めたりすることは意外と簡単にできます。

 

工具の寿命

 どんな工具も必ず摩耗しますが、金属の切削加工においては金属で金属を削るため、ノコギリで木を切るのとは勝手が違います。工具の摩耗は工具の丸みを生み出し、適切な切削ができなくなります。そんな摩耗と工具の寿命についても研究がなされています。まず摩耗に関しては皆さんが想像する機械的摩耗のほかに凝着摩耗、拡散摩耗、化学的摩耗(主には酸化摩耗)があります。凝着摩耗とは工具と加工物が凝着することによる摩耗で主に低速時に生じます。一方の拡散、化学的摩耗は高温時(≒高速)に生じやすく、原子の運動が活発になることで生まれるものです。酸化摩耗はその名の通り(解説放棄)で、拡散摩耗というのは原子が高温になった接触面を通して拡散してしまう摩耗です。拡散というのは原子や分子の分布を均一化しようとする働きのことで、洗濯物が乾くのも、水の中に塩を入れると徐々に溶け出し、最終的に濃度が均一な食塩水となるのもこの拡散の働きによるものです。

 また、工具寿命についても目安となるものは存在し、それがテイラー(Taylor)の寿命方程式です。

\((VT)^n=C\)  (5)

 

 ということで今回は切削理論でした。木材等でも似たような考えで切削を考えることができますが加工方法が違うことが多いので少々別のプロセスでの考えるのも大切になってきます。加工で次やるとしたらそういったところも踏み込んでみましょうか?授業でやっていないので様々な媒体からかき集めた情報をもとにした推測や憶測でしかないものが誕生してしまいますが。まあ考えておきます。それではまた

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