では、今回は焦らしに焦らしまくった送り装置についてです。送り装置は動力、動力伝達装置、レールの3つからなっています。通常の旋盤やフライス盤においてよくある組み合わせは、
動力→手またはACモータ
伝達→クラッチ+歯車+ねじ+ナット
となっており、NCになると最もメジャーな組み合わせは、
動力→ステッピングモータ
伝達→カップリング+ボールねじ
レール→リニアガイド(ボールベアリング)
となっています。それぞれ見ていきましょう。
動力
最も歴史が長く単純なのが人間の手です。5感をフル活用し、職人の勘と経験で切削を行う…めちゃくちゃかっこいいですがニーズに釣り合う品質を担保するのと人件費が非常にネック。近年はコンピュータ制御の方が精度いいですしね。時代は下り電気モータが普及し始めると自動送り装置を搭載した旋盤が一般的になってきます。これは任意の速度で刃物台を工作物の軸方向に動かすことができるもので、AC,DCモータによる一定電圧/周波数における定速回転を利用したものです。しかしこれは加工前にあらかじめ設定した速度でしか動かすことができません。そしてNCではステッピングモータが使用されます。ステッピングモータは通常のモータと異なり、回転角度を指定することができるモータです。これにより回転速度だけでなく位置をもいつでも自由に設定できるようになりました。他にもサーボモータや、少々特殊な例ではリニア、超音波モータが選択される場合もあります。
伝達
動力が変わっても長らく進化しなかったのがこの伝達の部分。基本は減速歯車+ウォーム(ねじ)の組み合わせでした。ちなみに、図に示すようにウォームは回転運動を直線運動に変えるためにあります。ねじやボルトと考えるとわかりやすいかと。自動送りが採用される時代になると、動力伝達のON、OFFを切り替えることのできるようにクラッチが導入されましたが逆にいうとそれだけなので。この方法の欠点は精度です。具体的には、
・バックラッシュ
・部品点数の多さ
・摩耗
が挙げられます。バックラッシュとは機械部品の「すきま」のことです。歯車やねじはきれいに隙間なく噛み合わせるわけではなく、実際には適度に隙間を設けます。これは摩擦低減や熱膨張への備えなどの理由があります。そのため、順方向から逆方向に運動方向を切り替えたときにすべての部品の隙間が埋まるまで一瞬空回りします。そのため、運動方向の切り替えの多いフライス、特にNCでは精度上非常に不利です。
NCの精度を調べるための試験の一つに円運動精度試験というものがあります。この試験においてx軸にバックラッシュのない機構を、y軸にバックラッシュのある普通のねじとナットを用いた機構を採用するとした図のようになります。なお、摩擦は存在しないものとします。
部品点数の多さと摩耗に関してもバックラッシュが関係してきますが、それ以外にも好ましくない理由があります。摩耗は部品を削り小さくしていくので製造当初の寸法精度が保証されなません。部品点数が多いと、摩耗、温度による膨張はもちろんのこと、公差の積み重ねによる誤差も考えられます。そんな小さい誤差気にしてと思うかもしれませんが今の工作機械はµmはもちろんのこと、nm単位での切削も可能な機種も存在します。原子の大きさが約0.1nmと考えるとすごいですよね。そして、母性原理から、機械自体(工具の軌跡)はそれ以上の精度(数nm~数百pm)で動作することが可能でなければなりません。そのため、精度が悪くなる可能性のある要素は極力排したいというのがあります。また、部品点数の多さはメンテナンス性の悪化や故障のリスクを招きます。
時代が進むとボールねじという画期的なアイテムが登場します。この機構、ねじを使っている点は変わりませんがねじ、ナット双方の谷は円弧上になっており、その上を鉄球が通る仕様です。転がり軸受をねじった感じですね。このねじはバックラッシュがない、または非常に小さく、摩擦も小さいため優れた運動精度を誇ります。また、原理的にそもそも摺動部が存在しないため摩耗による精度悪化はほとんど気にする必要はありません。
なお、テーブルの回転等に用いられる減速用ウォームギアもバックラッシュが大きいためローラギヤカムに変わっています。
そしてもう一つ重要な要素が継手です。継手はまた継手の回を作るのでそこで詳細に説明を行いますが、今回は工作機械によく用いられるカップリングのみの解説にとどめます。カップリングは板バネが軸方向に複数つながったような見た目をしており、用途としては軸のずれを解消する装置となります。機械には必ず組立時の誤差もあり、当然モータとボールねじの軸中心線もわずかにずれるのでそのずれの解消に用いられます。そのため、曲げやすいがねじれない構造となっており、正確に動きを転写することが可能になります。
下の動画は実際のNCの構成です。右から、サーボモータ、カップリング、軸受(シールド付ボールベアリング)、ボールねじとなっています。うるさいので音無しで動きを見てみてください。
レール
レール(案内)は機械自体や工作物の重量を受け持つための部品です。最もメジャーなのはボール(鉄球)を使用したリニアガイドです。構造はボールねじに似ています。これはころがり案内と呼ばれる種類です。他にもすべり、静圧流体、磁気、平行ばね案内があります。すべりはその名の通り材料上を滑らせる方法です。大重量の支持が可能ですが摩擦、摩耗、発熱が大きく、寿命は短いです。静圧流体は空気や油などの流体で支持物を浮上させる方法です。磁気は磁力で浮上させます。どちらも摩擦がなく、機械的な寿命は無限に近いです。しかしふわふわと浮いているので剛性に乏しく長距離の移動にはあまり適していないという欠点もあります。また、摩擦がないということは始動性はいいものの停止しにくいということであります。平行ばねは流体案内の特性に加え、非常に短い距離の支持しかできないという特性も併せ持ちます。
ここで摩擦の問題について。摩擦でよく言われる問題は静止摩擦と動摩擦の関係です。最大静止摩擦力は動摩擦力よりも大きいため、始動時のトルクをかけ続けると想定以上の加速度が発生します。一瞬の出来事故ソフト側での対策も難しいです。また、低速時に発生しやすいスティックスリップも大きな問題です。椅子を引きずると滑らかにすべらず、ガガガと振動することがあると思いますが、それがスティックスリップです。もう少し詳しく説明するならば固着と摺動が短時間で繰り返し発生することによる振動です。この摩擦の問題も円運動精度試験を行うと見えてきます。かなり簡略化すると以下の図のようになります。プログラム上では円を描いているんですがこうなってしまうんです。制御側での対策も可能ですがやはりハードで対策できるところはハードで解決しておきたいのでハード側も様々な対策が行われているという話だったわけです。
なんと送り装置だけで1本書けてしまった…。これでも内容は簡略化しているんですけどね。次回はついに2次元切削か?それともばねか?お楽しみに!
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