今回は二重反転プロペラ、コントラペラのお話です。構造が複雑で採用例は非常に少ないですが、カタログスペックは非常に優秀。実物を生で見たことある人はとても少ないんじゃないでしょうか。それこそ造船業や2022年までにアカギヘリコプター関連に携わっている方か、対ロシア機のアラート、スクランブルでTu-142を相手したことがある空自パイロットくらいじゃないですかね。そんなものについて解説しちゃいます!
二重反転プロペラ
二重反転プロペラとはその名の通り二つのプロペラを同軸で逆回転させているものです。航空機での使用が目立ちますが、船舶や冷却ファンなどにも使用されているものになります。特徴についてはざっくりといきましょう。
カウンタートルクの相殺が可能
作用反作用の法則ってありますよね。あれはすべての物体に作用するわけです。つまり通常の単発機ではプロペラを回す際にカウンタートルク(反作用トルク)が発生し、これにより機体を回転させようとする力が働き続けます。(ちなみにプロペラは定速回転ですが常にエンジンによって加速させられているのでしっかりと力は働いています。この文章は矛盾してないよ!)最もわかりやすいのはヘリコプターでしょうか。ヘリコプターってテイルローターと呼ばれる小さなプロペラが後部についていますよね。あれはカウンタートルクを打ち消すためのプロペラなのです。
プロペラ後流の影響をなくせる
プロペラが回転しているのは当たり前、ならばプロペラによってかき乱された空気もらせん状に旋回しているのは当たり前ですよね。さて、この竜巻のような旋回流が主翼や尾翼に衝突するとどうなるか。そう、迎角(AoA)を変化させているのと同じなので各翼に働く揚力が変化します。詳細は省きますがこの現象によりカウンタートルクと同じ方向に力が働きます。つまりパイロットから見て時計回りに回るペラを持つ機体なら機首が常に左側を向こうとします。
前項と併せてこの影響というのはかなり大きく、単発機には回転させやすい方向とさせにくい方向があったり、機体を直進させることが難しかったりします。そのため様々な機体や設備で対策がなされていることが普通です。エンジンや尾翼のオフセット(進行方向に対して正対せず微妙に角度をつけて取り付けられる)は当然のように行われますし、戦中の空母の艦橋の位置も日米が右よりなのはペラ回転方向がパイロットから見て時計回りだったからという話もあるくらいです。え?英空母?そんな奴らは知らん。(英空母は艦橋を右側に置いていますが英軍機のペラは反時計回り)
まあ二重反転にするとこういったことを考えずに済むので機体によっては大きな恩恵を受けることが可能です。ちなみに多発機でもカウンタートルク、プロペラ後流による影響はあるので二重反転プロペラはこれらの問題の解決に非常に有効です。
推力変換効率が高い
カウンタートルク等を打ち消すことにエネルギーを使わなくて済むようになり、結果的に推力効率が上がります。ヘリであればテイルローターが必要なくなり全てメインローターの動力になるのでよくわかるのではないでしょうか。
また、エンジンが強力になればなるほどプロペラ枚数を増やしていくのが定石ですが、それには限りがありますし、当然プロペラ半径にも限りはあります。そのため二重にすることで12翅ペラなどという前代未聞のペラを作らずとも、6翅×2にすることができます。この点においてもエンジン出力を推力に変換する効率は高いと言えます。
プロペラの小径化が可能
プロペラは大きい方が効率いいんじゃないの?と思った画面の前のあなた、まあそれはそれ、これはこれなんですよ。プロペラを小径化できると飛行機であれば脚の長さを短くできるし、ヘリコプターであれば発着場所に必要な面積を小さくできます。つまり艦載機では非常に大きなメリットになり得ますし、陸上機においてもそれなりに重要です。
構造が複雑で大重量
これはもうしょうがない。船舶ならまだしも航空機にとっては致命的です。
十分な工作精度が必要
二重反転プロペラ最大の問題の一つが振動です。工作精度が十分でない、特に二軸の軸心が一致していないと非常に大きな振動が発生してしまうことが知られています。
プロペラ間の安全距離の確保が必要
これは単純に二つのペラが接触しないように気をつけようねというだけです。可変ピッチペラではペラの最大コード長分のゆとりは最低限持たせておくべきですし、ヘリコプターのローターのような柔軟な構造物の場合十分な安全距離の確保は最重要になってきます。(kamovのローター間距離が大きいのはこのせい)
串型(?)
背中合わせ方式(発動機)
さて、プロペラを二重反転させるにはいくつかの方法があります。1番簡単なのは原動機を同軸に2基搭載する方法でしょう。これは2軸の軸心一致精度が低くても十分に高性能な二重反転を実現できるのがうまみなのですが、こういったエンジン配置がよく見られた黎明期の航空機はエンジンの信頼性に乏しく、出力も十分ではないため、空気抵抗を減らしつつより多くの発動機を搭載するということをより重視しています。つまり、この頃はそもそも二重反転だとかそういったことをあまり気にしていないということですね。そのため高性能なエンジンの登場によって航空機の世界ではやがて姿を消すことになります。一応4発以上の機体ならANT-20が最後になるんですかね?
なお双発機ならDo335やA500などのように後年においてもそこそこの数が製造されています。もちろんWW2以降のこれらの機体では基本的に二重反転機構のメリットを考慮して設計が行われています。特にカウンタートルクの相殺とロール性能の向上という面においては素晴らしいんですが…この話は次々回にまわします。
ハイブリッドタイプ
一方、船舶ではむしろ近年になってこのタイプの二重反転機構が注目を集めるようになっています。特に今注目されているのが船体側にディーゼルエンジン直結のプロペラを、舵側(ポッド)にモータ直結のプロペラを搭載しているもので、タンデムペラとかハイブリッド型とか言われることもあります。このタイプの一番のメリットは構造は単純で電動機側をポッドとして使用できるため小回りが利く(離岸接岸作業が容易である)ということでしょう。
新日本海フェリーのはまなす、あかしあはこのタイプを採用し、営業最大速力30.5ノット、公試最大速力32ノットを発揮し、通常の二軸船と比較して最大13%の消費燃料削減を達成しているというとんでもないバケモノフェリーです。タンカーが12ノット、通常のフェリーが22ノット前後であり、現代の駆逐艦や護衛艦の多くが最大速力30ノット前後とされていることからもその速さはよくわかるでしょう。2024/01/01の能登半島沖地震の際にも救援に向かう自衛隊の輸送艦(最大速力22ノット)を横目に全力で追い抜かしていく様が話題となりましたね。
電動機は割と自由度が高い
また、電動機をタンデム配置にすることで二重反転を実現するものもあり、ドローン、冷却系など幅広く用いられています。これは主には発動機の時と同様に背中合わせに配置するのですが、船舶などでは下図のようなものも可能なのではないかと勝手に妄想したりもします。シーリングが大変そうですね。ただ実用例は船舶でも一応あるようで。
なお、発動機ではこのような構造は不可能です。星形を含めてどのようなエンジン形式でもクランクシャフトが邪魔になってきますからね。え?ガスタービン?それは蒸気タービンも含めて考えても色々と美味しくないのでやらないほうがいいっすよ。ちょっと長くなりそうなのでここでは省略しますが。
ギアボックス
単発(発動機1基)で二重反転を行う場合はギアボックスで出力を分割してから片方を逆回転で取り出さなければなりません。こちらもいくつか種類があるのでひとつずつ取り上げていきます。なお、取りこぼしは普通にあるのでご容赦ください。
ベベルギアを用いるもの
これは自動車のデファレンシャルにかなり近い構造なので自動車好きの方ならすぐに理解してくださることでしょう。ベベルギア(傘歯車)を最低でも3つ配置することで2軸を反転して取り出すことができます。一番有名なのは魚雷のスクリューでしょうね。
なお、出力軸と入力軸が直交している場合(ヘリコプターなど)では入力をA、出力をBギアとすることも可能です。これは推測に過ぎないのですが、おそらくF-35Bのリフトファン内部のギアボックスについても同様の構造になっているものと思われます。二重反転ペラでメインエンジンから出力を直接取り出していることについてはいくつかの書籍で言及があるので間違いないと思われます。
逆転機を片方にのみ噛ませるもの
これはかなり単純。もちろん前後のペラは同一回転数としなければならないのでギアの刃数は調整が必要です。また、そのままでは原動機とペラが同一軸線上にないため、場合によってはこれが欠点となります。
どうでもいいですが構造的にはちょっとマニュアルトランスミッションみたいですよね。
遊星歯車を用いたもの
これは次回にまわします。
まとめ
と、いろいろあるのですが如何にもという感じの構造の複雑さですよね。工業製品はメンテナンスや故障率のことを考えると部品点数は少なければ少ないほどいいのでそういった面では非常にまずい。特に近代プロペラにおいて可変ピッチは当たり前の装備、つまりプロペラの前後にもいろいろな機械が入っているわけですからそこにさらに部品を押し込まれても…とはなります。重量増加も気になるところですし。その点船舶で採用されつつあるハイブリッド二重反転は素晴らしいのです。ということで次回「クズネツォフNK-12エンジン」!お楽しみに!
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