今回は人力飛行機の種類についての話。実機では古今東西様々な飛行機が作られては効率化の波に消え去っていきましたが、人力飛行機界隈でも同様の現象が起きています。とはいえ、効率一辺倒ではないこと、各チームの伝統、正確な計測技術と理論が未確立などの要因と、鳥人間コンテストの存在により日本国内では今なお様々な形状の人力飛行機を見ることができます。今回はとりあえずその種類と大まかな説明をしていきます。
とはいえまずは前提条件を確認しておきましょう。人力飛行機というのは「他の動力に頼ることなく人力でいかに長距離を飛行できるか」というのが一つの命題になります。一昔前では速度を競うなどもありましたが現在では廃れています。そして、市販の街乗り車でFFの運動特性を説いても無駄なのと同様に、実機でいうところの性能の傾向(例:カナードだと機動性が高い)はあてにならないことがほとんどです。人力飛行機は前述の命題を達成するためにいかに低出力で安定して飛ぶかということが重要になってくるのですが、これは極めて低速かつ緩慢な動きをする航空機ということに他ならないわけです。機体の形状を変更したからといって一般的な傾向に近い性能になるとは限らず、他のパラメータでいくらでも変更が効きます。なので、人力飛行機でDAE(後述)以外の形状をしているからといって機動性向上などを狙っているわけではなく、単に独創性、アイデンティティの確保という側面が強いことを念頭に置いて以降の文章を読んでくださるとうれしいです。
ダイダロス型(DAE)
基本形
推進式のプロペラにパラソル翼、フライングワイヤが装備されていて、操舵系はワイヤリンケージで全遊動式のエレベーター(水平尾翼)とラダー(垂直尾翼)を動かす最低限なもの[注1]。駆動はシャフト式。
派生1:プロペラ位置
俗にいう前ペラ(牽引式)、中ペラ(正式名称不明)、ケツペラ(推進式)というやつですね。
派生2:主翼構造
これは主に4種類存在します。
派生3:n人乗り
実機でいうところの何発機かっていうやつですね。まあ最大でも芝浦工業大学TBTの2人乗りまでしか知らないんですが…
派生4:フレーム構造
これはパイロットの乗機姿勢がアップライトか、リカンベントかというものと、片持ちを採用しているか否かといった感じですね。
派生5:プロペラ枚数
実機でも結構大事な何翅かという話。一般的にプロペラというのは枚数が少なく大直径なものをゆっくりと回すと効率が良いと言われています。そのため、大阪工業大学のの1翅ペラというのは理論上最強のペラなんですね。ただ、バランスをとるのが難しい、推力の確保などの面から2翅が普通です。
派生6:尾翼位置
垂直、水平の位置関係とそれに起因するマウント構造の違いです。また、一部の機体では先尾翼(カナード)を搭載しているものがあります。
派生8:駆動方式
チェーン、ベルト、シャフト方式が存在します。一応チェーンはねじれチェーンと呼ばれる軽量化重視タイプと、通常のものが存在。また、広島大学HUESのように駆動を二股に分岐させることで疑似双発機を作っているチームもあります。
派生7:操舵方式
これはワイヤリンケージとフライバイワイヤの二種がほとんどです。ワイヤリンケージは舵面と操縦桿をワイヤ(ロープ)でつなぎ、操縦桿を操作するとワイヤが押し引きされることで舵面が動きます。一方フライバイワイヤはパイロットの操作を電気信号に変換し、その電気信号により舵面に接続されたモータを動かすというものです。
以上のように様々な派生型が展開されているのがダイダロス型の特徴であります。そのため、どこまでをダイダロス型とするかは人によって意見が分かれますが、このブログではプロペラシャフトの高度とパイロットのペダルの高度が大きく異なり、基本的に翼配置がパラソル翼であるものを指すことにします。
ダイダロス型以外
そしてここからがダイダロス型以外の機体になるわけです。ダイダロス型を広い意味でとらえて、派生形をたくさん作ってもその枠に収まらない☆H☆E☆N☆T☆A☆I☆たちを紹介していくぜ!
低翼
静岡大学ヒコーキ部が現在取り組んでいる方式。駆動方式はDAE系(ペラ位置は問わない)なのだが、主翼はパイロットの下にある面白い形。実機では低翼の方がメジャーなのに人力機では変態扱いである。また、24年6月には大阪産業大学の鳥人間プロジェクトがTwitter(正式名称:X)で公開した写真には低翼で尚且つ中ペラを採用するという大変意欲的な三面図が映っていた。これからの動向に注目である。
タンデム主翼機
主翼を前後に2列並べた飛行機。『風の谷のナウシカ』で見られる飛行機というとわかりやすいかもしれません。一応前例はあり、05年の名古屋大学AirCraftの機体。
複葉機
主翼を上下に2枚重ねたような飛行機。実機の方では1900年代初頭にメジャーでした。滑空機や、鳥コン黎明期での前例しか聞いたことがないです。翼が2枚あっても揚力は2倍になってないし、いろいろと効率は悪いしで、近年では競技性がより重視されてきたため消滅してしまいました。
無尾翼
尾翼を廃し、すべての操舵を主翼と、主翼に取り付けられた垂直安定板により行うものです。22年までの大阪大学Albatrossで採用されていました。これを可能にするため後退翼を採用しているのも大きな特徴でしょう。
直結駆動型
低翼
東海大学TUMPAが伝統としているタイプです。そこそこ長い歴史を持つのですがその全容についてはあまり知らないんですよね。
F型
20年より名古屋大学AirCraftが開発を進めているタイプ。次回以降に説明します。
まとめ
ということで近年の「競技性の強い」鳥コンで用いられてきた、もしくは世界記録を目指すような人力飛行機の種類についてでした。細かいことを言い始めるともっと種類についてはありそうですが調べるので精一杯になりそうなのでこの程度でご容赦を…。もっと詳しく知りたい!という方は、つばさつるさん、人力飛行機探訪記さんなど先駆者且つ私よりも造詣が深い方々がいらっしゃるのでぜひそちらをあたってみてください。
脚注
[注1]
通常の実機は、ヨーを司るラダー、ピッチを司るエレベーター、ロールを司るエルロンの3つで操舵を行う。また、近年ではフラップ、スラットをはじめとした動翼が付加されることもある。
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