今回は熱処理です。ぶっちゃけモノタロウのHPが分かりやすいのでそっちを見ていただければ早いです。が、工学をわかりやすく、しかもこのブログ内でほとんど解説しきるのが目標なので適度に手を抜きつつやっていきます。
金属材料の基本
ではまず金属材料の前提から。高校の化学基礎で面心立方格子をはじめとした結晶格子の勉強をしたのを覚えているでしょうか。金属の種類によって差異はあるものの、どの金属も拡大して見ると原子があのように整然と並んでいるわけです。さらに視線を少し引くとところどころ結晶に欠陥が見えるようになります。この欠陥が金属の展性や延性、ひいては塑性変形という現象そのものにも深く関係するのですが今回は関係ないので省略。で、ここからさらに視線を引くとたくさんの塊の集合体が見えるようになります。この塊を結晶粒、塊と塊の間の部分を粒界といいます。ガスタービンエンジンのタービンは単結晶精密鋳造で作られるなんて話がありますがこの「単結晶」というのは粒界がない状態を言っているわけです。一方、ほとんどの金属材料は多結晶、すなわち結晶粒と粒界が共にある状態です。熱処理というものはこのスケールの微細構造の話をしていると考えてください。あくまでµmオーダーです。みんな大好きナノオーダーじゃないよ。
鋼の熱処理
鉄―炭素合金(以下鉄合金)の熱処理において大事になるのが鉄―炭素平衡状態図とTTT曲線です。この二つには様々な言葉が書かれているわけですが、その言葉が表しているものが微細構造の種類というわけです。じゃあそれはどう使うの?というのはまた今度の機会にします。この話めっちゃ長くなるので。以下に概要を記します。
鉄―炭素平衡状態図とは炭素含有量と温度による鉄合金の組織変化を表しています。だからどうしたというのはTTT曲線につながります。
そして、TTT曲線はTime Temperature Transformationそれぞれの頭文字をとったもので、処理温度と冷却速度による鉄合金の組織変化を表しています。早い話が処理温度と冷却速度によって鉄合金は強度や剛性などの性質を変えることができるということです。ここでいう処理温度というのが鉄―炭素平衡状態図につながるのです。
まあだいたいはこんな感じ。細かい話は気が向いたら。
では最後に実際の熱処理について有名どころを一通りさらって今週は終わりにしたいと思います。
- 焼き入れ
鋼を硬くする。高温の鋼を急冷する処理です。この高温とか急冷の定義を示しているのが鉄―炭素平衡状態図とTTT曲線というわけです。ミクロな話をすると組織をマルテンサイト化させることで硬度と強度を上げています。ただ、硬くなるということは脆くなるということ。製品としては使いづらくなるので通常は後述の焼き戻しとセットで行われます。焼き戻しまで行うことで強度、剛性、靭性すべてのバランスがよい鋼製品が生まれます。
- 焼きなまし
鋼を柔らかくする。加工の際、材料が適度に柔らかいほうがメリットが多くなります。プレスや切削、研削加工が容易に、工具材料も安価なもので済む、工具寿命も延びるなどがメリットとしてあげられます。また、組織の均一化や残留応力の除去もできるため、加工の際には必須の熱処理といえます。ちなみに組織の均一化というのは結晶粒度の均一化、即ち結晶粒の大きさをそろえるということです。結晶粒の大きさをそろえることで材料そのものが均質になります。均質な材料というのはかなり重要で、加工性はもちろん製品の品質にもつながります。残留応力については材料が一通り終わってからにしますがこれも特殊な用途を除き、無いほうが望ましいです。
- 焼きならし
組織を均一化する。焼きなましで組織の均一化の重要性は説明したのでそこは飛ばします。ただこの焼きならしは材料を柔らかくはせず、組織の均一化を主目的に行われます。なぜ焼きなまし以外にこんなものがあるかというと、目的や使用シーンが異なるからです。鉄鋼製品は、鉄→鋼→鋼材→製品の順に製造が進みますが焼きならしは鋼→鋼材のときつまりは製鉄所で必要なもの。焼きなましは鋼材→製品のときつまりは工場で必要に応じて使われます。では焼きならしの組織の均一化はいったいどういうものかというと基本は焼きなましと同じです。均質な鋼材の重要性は言わずもがなですが、この均一化に関しては組織の微細化も行われます。要するに結晶粒を小さくします。
- 焼き戻し
鋼に靭性をもたせる。焼き入れを行うと鋼は固くなりますが同時に脆くなります。そのため、粘りや靭性を高めるために行われます。焼き入れと焼き戻しは必ずセットで行われます。高温焼き戻しと低温焼き戻しに大別することができ、製品によって使い分けられるようです。耐摩耗性への効果もあるんですね。焼き戻しに関しては詳しくないのでこれを書いているときに初めて知りました(笑)。
- 表面硬化熱処理
名前の通り部品の表面のみに施す熱処理です。有名どころだと浸炭処理などがあります。表面だけに硬化処理をしていいことなんてある?と思われるかもしれませんが案外表面のみ硬化させるとかなり使い勝手の良い部品になるケースは多いです。たとえば摺動部に使われる部品は部品全体で見た場合の強度はそこまで必要なかったとしても摺動面、即ち材料表面は摩耗を防ぐために硬化させたいですよね。また、金属疲労はまず表面に蓄積するため表面のみ硬化させることで疲労を防ぐ、遅延させるということも可能です。少々特殊な用途としては1900年代前半の戦車の装甲が挙げられるかと。表面の硬化層で銃砲弾を弾き(もしくは砕き)車内側の柔らかい層で装甲板が割れないようにする、またはホプキンソン効果対策として用いられることもありました。前者は割と日本刀の構造に通ずるものがありますね。
余談ですが、表面硬化に関しては焼き入れと同じようなことしているため、焼き戻しのような処理も必要になる場合があります。WW2末期には焼き戻し工程を省略したために小口径弾でも被弾すると装甲が割れる戦車があったとか。本当かどうかは知りませんがそんな逸話が生まれるくらいには熱処理は大事です。
次回は特殊鋼について!種類がとにかく多いので具体例を書くだけの回を作ってしまった方がいいかもしれませんね。とりあえず次回は概要です。お楽しみに!
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