2.3 留め具-4 釘

基礎部品

 今回は釘です。木造建築には欠かせない釘について見ていきます。

 さて、冒頭の「木造建築に欠かせない」というところ引っ掛かった人もいるのではないでしょうか。なぜなら寺社仏閣の建立、修繕に携わる宮大工の説明で「釘を一本も使わずに」という表現をされることがよくあるからです。しかしこの説明は語弊があります。宮大工の方々は確かに1本の釘を使うことなく建物を建てることはできるかもしれませんが、実際にそのような建物はありません法隆寺や東大寺も建立当時から釘は使用しています。あくまでそういった技術があるだけで実際にはそのような凝った作りは省略できるに越したことはないのです。そもそも古い寺社仏閣も建立時はいかに宗教建築物としてあるべき姿を保ちつつ効率的に立てることができるかを考えていたはずです。木材が豊富で、鉱山、金属技術で後れを取っていた当時は金物が少ないため、それを補うために木材のみでの接合を考案したという方が自然な流れかと思われます。

 釘の基本は木ねじとほぼ同じで木材の弾性力を利用して摩擦力を発生させます。しかし、それだけでなく表面が錆びることでわずかな隙間にも錆が入り込み、木への食いつきを良くします。釘を咥えて作業する職人さんはあえて釘が錆びやすいように事前に湿らせてから打ちこむことで木への食いつきを良くしているということです。

 

 釘には大きく分けて洋釘と和釘の2種類があります。

洋釘

 皆さんが想像する釘はほぼ全て洋釘です。洋釘は軟鋼、ステンレスなど様々な素材で作られており、抜けにくく釘としては安定した品質です。大量生産にも向いており、現在用いられる釘のほとんどは洋釘となっています。胴の部分は円筒形で、食いつきをよくするためにらせん状に溝を切ったものも存在します。硬く、形状も統一されているので自動化も容易です。現代の住宅建設においては圧縮空気を用いた釘打ち機を用いることがほとんどで、これにより1s/本程度の速さで釘を打つことができます。

 

和釘

 こちらは飛鳥時代から用いられてきた日本古来(?)の釘です。素材は軟鋼ですが、鍛造により製造され、品質の良いものは鍛造の過程で炭素が抜け純鉄となります。一本一本職人が手作りするのが特徴です。純鉄なので柔らかく、木の節があった場合は釘自身がよけながら進みますまた、その大きさも相まって鋼では生成されにくい酸化被膜を作ることで錆への耐力もあります。釘の芯まで錆びることはなかなかないので古くからの寺社仏閣はその原型をとどめることができています。さらに表面は緩やかに波打っているため打ち込んだ後に木が膨張することで食いつきが良くなります。また、前述のように1本の大きさも洋釘と比べると大きいのも特徴です。しかしながら、大量生産が難しく、洋釘と比較して抜けやすい[注1]という欠点もあります。

 

 ということで今回は釘についてでした。鎹(かすがい)等の釘の派生については扱いませんでしたがおおむね釘と似たような感じです。ということで留め具類はここで終わりです。次回からは窓や扉といった開口部についてです。お楽しみに!

 

脚注

[注1]

洋釘と比較して抜けやすいという説明をされることが多いためこの説明を採用しています。和釘の工場(こうば)でも同じ説明が行われていましたが、この説明には少々懐疑的です。というのも洋釘と和釘では大きさ、表面形状が違い、どちらにおいても和釘の方が有利だと思うのですが…しかし感覚というのはこういった場では間違っていることの方が多いのであきらめています。また、実験などが詳細に行われたわけではないようですし、いずれにおいても明言は避けるべきなのかもしれません。

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