今回はF型(後期型)についてです。テールを下げることでテストフライト運用を十分に考慮した型の解説となっています。
概要↓
初期型↓
Stellar(22年の機体)
22年には大幅に改良を施された機体として「Stellar」が作られます。全体としてTF運用を考慮したものとなっています。
鳥コン本番では約1kmの飛行に成功しました。脚の引き込み前後での出力の変動も観測でき、様々な面において後の機体開発に多大な貢献をしたのは間違いないでしょう。
余談ですがこのときに新たな機体形状として「F型」という名称が考案されます。以降は(といってもまだ2年しかたっていないが)公式文書にもこの名称が登場することになります。Type-Fも考案された気がするけど確か「ダサい」「TeamFやん」という理由で消滅した気がします。
Pleiadesからの変更点は多岐にわたります。1つずつ見ていきましょう。
駆動
据え置き。言葉のままである。え?どういうことかって?Pleiadesの駆動をそのまま使ってるんだよ。つまりFormalhautの駆動をそのまま使ってるんだよ(白目)。
流石に3年目ともなると各所にひずみが発生しており、調整が非常に難しかったと23代の駆動班長が証言しています。以前触れたようにF型になってからパイロットの漕ぎ心地の快適さに対して非常にシビアになっているためそれも相まってなかなか苦労したものと思われます。
脚
TF脚
TF脚についてはPleiadesと概形は同じで堅実なものです。ただ、下メインなるものができたため、後ろフレームとの接合は従来の竹輪方式では不可能と判断(桁の十字接合は基本的に不可能)され、受け皿で支えるものとなっています。受け皿と下メインはボルト接合され、これにより飛行中も抜け落ちることがないというものです。ただ、この構造は非常に重かったのが難点です。
本番脚
一方本番脚もいくつか変更がありました。まず、ヒンジ部をCF-dとステンレスやジュラルミンを使用した剛結に変更しています。次にモータにかける電圧を規定の2倍まで降圧(?)しています。また、前年の鳥コンでの失敗を「ジュラルミンとCF-dの熱膨張率の違いによるもの」とし、フレームとの接合部を若干変更しています。結果としては成功。本番の会場を大きく盛り上げることに成功します。
フレーム
前年とパイロットが変わらないため、ジオメトリは前年のものを流用しています。ただし、TF運用(組み立てやキャッチ事情)をより容易にするためテール位置を大きく下げています。そのためこの代から前代未聞の上メイン、下メインという用語が爆誕。また、前フレームと下メインの接合においては斜めフレームと同様に小さい桁に大きい桁を取り付けるという事態が発生しているので気合で何とかしています。とはいえ前トラスが存在しているため、ある程度無茶をしても強度的には問題ありません。
フェアリング
エアインテークはMig-21のようにドラシャ周りに存在します。Pleiadesと異なり、パイロット冷却性改善のためにアウトレットが肩の直後に左右一か所ずつ設けられました。全体として直線、平面基調のフェアリングとなっています。フェアリングの苦労話は絶えませんが技術的には関係がないのでここでは触れません。
電装
当初は左手でエレベータとラダー、右手でエルロンの操作を行うことになっていましたが、TFでジョイスティックの斜め入力が問題となり、後にエルロンは別系統となりました。
翼
主翼
ロール方向の操縦性向上のため、エルロンを3、4番翼に設置し、モーメントアームを稼いでいます。舵面は途中で作り直され初期はスチレンペーパー、最終的には3番舵面をAF、4番舵面をCF-wで製作しています。
ちなみにエルロンの採用理由は、F型は地上滑走中の重心が高くロール安定性が悪いので、ロール操舵を可能にすることでTF運用をより円滑にしようという目論見があるためです。そのため、「エルロンにより機体全体を大きく操舵すること」よりも「ロールしてもキャッチが入るまでに翼端が着地しないようにぎりぎりまで粘ること」を重視する側面もありました。
尾翼
主翼と同様、翼端のAF-Dboxを廃し、完全に桁で支持する構造になりました。これにより翼厚を小さくすることは難しくなりましたが、軽量化には成功しています。ただし、エレベータに関しては\(\phi20\)の細い桁を採用しています。これにより強度が小さい翼となり心もとない感じでした。実際の効きについては、そもそも人力機においてエレベータを操作するということは非常に稀なのでデータ不十分で評価は困難です。
また、Dbox化前提のプランク構造だったためプランク剛性が不足しており、べこべこ凹むのが欠点です。
鳥コン本番の様子↓
Arcturus(23年の機体)
そして23年に製作されたのが「Arcturus」です。鳥コンは書類審査で落選したため、TF運用しか行っていません。つまり、引き込み脚が存在しません。運用結果としてはAirCraftでは久々の10回ものTFを実施することができ、飛騨エアパークでの飛び切り(滑走+飛行で800m)を行いました。
駆動
Formalhaut以来の完全新設計ギアボックス。某企業様からお声がけ頂き5軸CNCを使用させていただけることになりました。そのため準一体成型が実現し、組付け精度と整備性、重量が大幅に改善されています。重量に関しては、ギアボが一体に近いので有限要素解析もある程度簡単になり、部品ごとに寸法を攻めることができたのが大きいのだと思われます。
脚
前後とも竹輪で接合する方式に改めました。また、安全バーを完全に廃止。過去の実績から不要であるとの判断を下し、軽量化の意味でもこのステンレス棒を廃しました。エアクラ史上でもトップクラスの全備重量の中、100回近くに及ぶ着陸及び走行に耐えきったのでおそらく問題はないと思われます。さすがメタルロックって感じですね。
前述のように本番脚は設計、製造は一切なされていませんでした。(さすがに桁だけは用意していた)
フレーム
パイロットが前年度より大型化したのでそれに合わせて大型化し、桁に関しても肉厚が十分に取られています。TF脚との接合部に関しては竹輪の長さを300mmに変更しています(変更というかミスでこうなった)。後ろ足の接合に関しては少々凝った作りになっており、後ろフレームは下メインを半貫通して、後ろ足の衝撃を下メインのみが受け持つのではなく後ろフレームでも受け持てるようにしています。メインに穴を開けるのはどうかと思いますが、まぁ断面変形が嫌だったんだろうなーくらいで。後ろ足の竹輪がついている桁に関しては完全片持ちで下メインから生やしています。チョップドカーボンを使用するパテなので問題ないと判断したのでしょう。
また、前トラスについてもCF-wバルササンドイッチで補強板を入れています。ただし意味はよくわからないし、多分着けてる意味は皆無だと思います。
ちなみに、ここまで書いておいてなんですが前年度のパイロットが小さすぎただけであり、決して23年Pが巨大だったかというとそういうわけでもないんですがね。
フェアリング
えーなんて言おうかな…。全員からまだできないのかと急かされ、とりあえず作ってはみたものの設計からダメ出しを食らいTF期間中に変更が加えられた箇所です。エアインテークはStellarと同じです。アウトレットは当初Pleiadesと同様の最後端に位置していましたが、後にその部分は密閉され、パイロット冷却性改善のために新たなアウトレットが肩の直後に左右一か所ずつ設けられました。そのためStellarと比べたときの外見上の違いは最後端の塞がれたアウトレットのみといっても過言ではありません。
電装
前年を踏まえたものになっており、冒険的な要素はほとんどないはずです。トリムスイッチとフラップスイッチを操縦桿に取り付けたため、操縦桿だけでラダー、エレベータ、エルロン、フラップ、トリムを操作できるよ!すごいね!
翼
主翼
コンセプト…というと大げさですが目指しているのは「Polarisの再来」です。高剛性の主翼にフラッペロンを装備した翼となっています。
主桁(メインスパー)
Stellarの落ち方はなかなか特徴的なもので、あの落ち方に対する解はArcturus設計当初は数通り考えられていました。ただ、どのような答えであっても主翼剛性の強化で対応可能とのことだったため、主翼剛性を強化し、上反角を従来の設計値10degreeから設計値8.1degreeへと縮小させています。ただ、片持ち構造でなおかつリアスパーの存在しない翼では中央桁の肉厚はすさまじいものとなりました。とはいえ毎年なかなかイカツイ桁断面なのでパッと見では強化されたことはかなりわかりにくいです。
フラッペロン
0番(中央翼)にフラップ、1、2番にフラッペロンを装備しています。内側に装備した理由はコクピット、ひいては機体全体への伝達をより早く、正確にするためです。Stellar方式だと確かにモーメントアームは稼げる(少ない力でも効果大)のですが、主桁がたわんでしまってパイロット視点だと機体の操縦性が悪いように感じてしまうという問題がありました。そのため内側に装備することで応答時間の向上を図ろうということです。また、舵面のヒンジ位置は翼前縁から約80%の位置から始まることが多いのですが、あくまで割合なので舵面面積は翼根側の方が稼げます。さらに人力機だと0、1、2番でほとんど(といっても過言ではない)の揚力を生み出しているのでここの揚力をいじってやる方がもちろん発生する力の絶対値は大きいのです。ということでモーメントアームが短いものの発生する力は絶大、よって翼根装備と翼端装備で大差ないのではないかという考え方もできます。つまり翼端で粘るのではなく、機体全体の機動性を向上させる思想に切り替わっています。実際、エルロンの効きはすさまじく、これで助けられたことも多かったのが印象的です。
尾翼
前年の鳥コンでテールヒットしたため、その対策としてラダー下部を小さくしています。ただし、下部に一区間だけ残すのは翼端の数はそのままに舵面としての能力は低下しているということであり、しかもカーボンリブのみの区間が存在するのも重量的にうまみがないんですよね。後に設計は「どうせなら逆T字にしとくんだった」と後悔しています。
試験的に単板のCF-wを使用したカーボンリブを一部導入しています。エアクラのCF-dリブは3層の積層板をスタイロのリブの両面に貼ったものであり、剛性は十分にありますが重量は大きいのが難点です。それだけの剛性や強度が必要ない部分についてある程度の最適化を図れたのは間違いないでしょう。
Stellarで問題となっていたプランク剛性についても主翼と同様の構造に改めることでこれを解決しています。
飛騨エアパークでの飛び切りの様子↓
まとめ
後期型はプラットホームでのテールヒットの可能性が高くなっているもののTF運用は容易です。また、運用を重ねるごとに細かな改良点が洗い出されたことでF型としてもだいぶ洗練されたものとなってきています。とはいえDAEが登場から40年と考えるとまだまだ若者。改良できる余地もたくさんありそうです。
エアクラは三面図を公開しているのでぜひそちらも見てみてください。面白いですよ。24年機も紹介してもいいですが情報がまだないので何とも言えませんねぇ。まあ期待はしないように。
三面図一覧↓
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